本日はスターキーアメリカ本社で行われているポッドキャストコンテンツから、
CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)アーチン・ボーミックのインテルでの経験と、スターキーで活躍することにつながった道のりをCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー)デイブ・フェイブリーとの会話から知覚(パーセプチュアル)コンピューティングというキーワードを用いて解説します。
CIOデイブ(左)とCTOアーチン(右)
知覚(パーセプチュアル)・コンピューティング
~計算や論理だけでなく、
周りで起こることを理解する感覚を持つコンピュータ~
デイブ:
どのようにしてスターキーにたどり着いたのか、インテルでの経験からあなたの経歴について少しお話できますか。
アーチン:
私の経歴を話す前に、まず専門用語を定義させてください。
「知覚(パーセプチュアル)・コンピューティング」と呼んでいるものです。
私は根っからのエンジニアです。神経科学者ではありませんが、神経科学者と多くの時間を過ごしています。私は自然なヒューマンコンピュータインタラクションを研究してきました。
何が自然なのか、普段の生活の中で、私たちはどのように行っているかに興味を持ち始め、さらに深く掘り下げていくと、人間というシステムがどのように機能しているのか、もっと具体的には、私たちがどのように世界を感じ、認識し、理解しているのかを深堀する以外に道はなくなっていきました。
エンジニアとして、私たち人間が持つすべての構成要素に目を向けることになります。「知覚(パーセプチュアル)・コンピューティング」は、インテルで陣頭指揮をとった際、取り入れた専門用語です。
一般的にも、私たちは自分の知覚を当たり前のように使っています。
私たち人間にとって、知覚はごく自然で簡単なことです。
朝起きて目を開けると、パッと光が入ってきますが、その時に起こる物理的なプロセスをすべて意識しているわけではありませんよね。
物理学的にいうと、光は、基本的に太陽や照明の光からやってきた光線や光子が、周囲の環境で跳ね返って眼球に入り、目の奥の網膜で神経インパルスという電気信号に変換され視覚野に入り、そこで解釈を得て、さらに高度な処理によって周囲の状況を理解することができるのです。そして、さらにこれを他の感覚とも組み合わせています。
デイブ:
つまり、一つの感覚ですね。
アーチン:
はい、視覚という一つの感覚です。
デイブ:
そうですね。では視覚から離れて、耳について考えてみましょう。私たちは補聴器を扱っていながら「耳で聞いているのではない」といつも言っていますが、その真実は耳も目と同じようにセンサーとして機能している、ということです。特に視覚と聴覚は密接に絡み合っています。「ああ、私は少し聴力が弱くなってきたので、読唇術を学んだほうがいいのかな」と言う人がいますが、ある部分で私たちはずっと唇を読み、その情報を使ってきているんです。2つの目と2つの耳は、どちらも感覚入力器として機能しています。
アーチン:
触覚、嗅覚、味覚、さらにそこから意味的な情報を引き出す高次元のレベルまで、私たちは常にすべての感覚モダリティを持っているからですね。
デイブが微笑んでる、相手が困っている、目、耳、皮膚、皮膚からの触覚、嗅覚、味覚、すべての感覚入力器を使う私たち人間の驚くべき能力、これによって私たちはこの世界を楽しみ、理解し、互いに交流することができます。
私はこれを「知覚(パーセプチュアル)・コンピューティング」と呼んでいます。
インテルやその他の大企業、アップル、グーグル、そしてシリコンバレーの指導者たちと一緒で、私の頭の中では、コンピューティングの世界は、机の上に据え置かれるシステムから急速に進化し、やがてポケットの中のコンピュータになるということが、はっきりと認識されていました。そして、コンピュータは今どこにでもあります。
さらに自動運転する自動車を考えてみてください。あれはもうコンピュータですよね。周囲に何があるかを認識して、物にぶつかることなく飛び回ることができるドローンも、コンピュータです。
耳の中に入るスターキー補聴器も、周囲の状況や音響環境を理解しているわけですから、これはコンピューターですよね?コンピュータの定義は進化しているんです。
計算や論理だけでは不十分で、周りで起こることを理解する感覚を持つコンピュータが必要になってきています。これこそが、インテルでのキャリアとスターキーでの新しい世界をつなぐ架け橋になったと思っています。私は、この知覚とコンピュータの間に大きな違いはないと思っています。基本的な部分は同じです。
知覚(パーセプチュアル)コンピューティングを
TED Instituteでプレゼンするアーチン博士
デイブ:
そうですね。機械と人間の間も、もう境界線はなくなってきていると主張したいですね。私はその良い例です。私は徐々にサイボーグになりつつあります。(笑)
アーチン:
私たちはよく冗談で言っていますね、あなたは生きるサイボーグですよ。(笑)
デイブ:
そうです。(笑)これが、あなたがスターキーや聴覚分野の世界へ進んだことでもあるのですが、視覚や触覚との接点があることを改めて認識しています。
私は業界の古い人間なので、振動触覚を利用した時の補聴器を覚えています。今、私たちは視覚と聴覚について話していますが、高度難聴の方が異なる音を聞き分けるために、振動触覚センサーが使われていたこともあります。
それは現在につながっていて、2018年(日本では2019年)にLivio AIを発売したとき、私たちは機械学習とAI(人工知能)とともにセンサーを内蔵した補聴器を導入した最初の補聴器メーカーになりました。
より良いテクノロジーのためのテクノロジー開発か、
人間の知覚拡張に活かすテクノロジーの応用か
アーチン:
はい、その裏話を皆さんに少しお話ししましょう。ビル(スターキー創業者)と交流するようになって、あの時の会話を思い出します。
ビルから「私は、あなたが知覚(パーセプチュアル)・コンピューティングと呼んでいるものについて詳細は知らないけど、好きだよ。生物学から学んでテクノロジーに影響を与えているものですね 。」と言われました。でも、その後に、「あなたがやっていることは、その知識と直感を使って、より良いテクノロジーを作るためにテクノロジーを開発しているんだね」と言われたんです。
A地点からB地点まで移動する車ですが、高度な技術によって、車は環境を認識し、A地点からB地点まで連れて行ってくれるようになりました。あるいは、ロボットやドローン、コンピュータは、じっと見ているだけで自分の顔を認識してくれるでしょう。これは、生物学にヒントを得たテクノロジーで、テクノロジーを強化しているわけですね。
しかし、それをさらに一周させてみることはできないか。
生物学から学び、自然界の仕組みからヒントを得て、それに基づく技術を開発し、その技術を使って人間の知覚を向上させる。
スターキー入社は私がずっと開発してきたテクノロジーとしての機械的な知覚向上から、人間の知覚拡張へとシフトする機会だと思ったのです。
補聴器は、人と人をつなぎ、補聴器なしでは聞こえない方の聞こえを助けるという素晴らしい役割を担ってきましたが、スターキーは、補聴器を単一目的デバイスから、もっと多くの方法で人々をより助けることができる多目的デバイスに変化させる機会と考えたのです。
2007年アップル社はiPhoneを発表しました。すでに人気があり、とても便利だった携帯電話を使い、iPhoneは携帯電話でできることがすべてできただけでなく、カメラになり、GPSになり、ポケット型コンピュータにもなりました。YouTubeを見るためのデバイスにもなり、ゲームデバイスにもなりました。誰もやったことがないことだったので、私たち皆が新鮮な驚きを受けたことでしょう。
そして、補聴器も意識せず、いつも一緒にいる(一日中装用している)という特徴を活かすことで、さらに良い機会を得ることができるでしょう。
2019年世界初センサー&AI補聴器Livio AI発売時の紹介ビデオ
補聴器は、基本的に常に使用するものです。
そこで、3つの側面をスターキーは提示しています。
新しい技術でこれまで以上に良い仕事を補聴器にさせるにはどうしたらいいか?
1つ目は「きこえ」についてのセンサーや機械学習について。
2つ目は、すでに耳の中に入っていれば、耳は健康を感知し、生体認証を行うために最も適した場所です。安全を確保するような機能を使えないのはもったいない。うまくいけば自分が気づく前、あるいは医師に診てもらう前に、健康問題に気づいてくれるかもしれません。
そして3つ目は、このデバイスを情報の世界への窓口として、私だけのパーソナル・アシスタントにするにはどうしたらいいかということです。
このように、補聴器にはあらゆる可能性があります。
古いものと新しいものとの橋渡しをすることで、据え置き型のコンピュータから、常に手元にあるコンピュータへ、そしてコンピュータは単に自分を楽しませるためのガジェットとしてではなく、より良い生活を送るためのものとして、広く普及していきます。
インテルで知覚コンピューティングを研究する新しいグループのリーダーだった頃から、スターキーで補聴器を次世代ウェアラブルデバイスに変えたのは、ほんの短い間で実現できたことなんです。
いかがでしたか?
スターキーの最新補聴器Evolv AIにつながるストーリーは今後も更新して参ります。