(2025年7月18日更新)
あなたがミュージシャンであっても、音楽ファンであっても、あるいは専門家の深い知見に関心がある方でも、今回の話題にはちょっと耳を傾けたくなるかもしれません。
クラシック音楽家の方が、ロックミュージシャンより難聴になりやすいとしたら、なぜでしょうか?
クラシック音楽は、一般にロックのような大音量や激しい演奏スタイルではなく、ましてや野外コンサートなどで見られるような巨大なスピーカーで音を増幅することも少ないはずです。それなのに、なぜそんなことが起きるのでしょうか。
カナダ、トロントの「ミュージシャンズ・クリニック(Musicians' Clinics)」のディレクター兼主任オーディオロジストを務め、音楽家と日々向き合っているMarshall Chasin氏は、クラシック音楽家がロックミュージシャンよりもきこえの問題を抱えやすい理由について米国公共ラジオ放送(National Public Radio)のインタビューの中で
その理由を2つあげています。
大きな音が、しかも長時間にわたって続くと、耳を含む聴覚にダメージを与える可能性があることは、よく知られています。Chasin氏によれば、クラシック音楽家にとっては、まさにこの「継続的な音への曝露」が耳への負担につながりやすいとのことです。
Chasin氏によれば、クラシック音楽家はロックミュージシャンよりも、音楽に向かい合う時間が圧倒的に長いといいます。1日4〜5時間の練習、1日1〜2時間の指導、毎週4〜8回の本番演奏があることは珍しいことではありません。
一方でロックミュージシャンは、単発のライブ演奏を行った後、次のライブまで1~2週間ほど練習も演奏もしないこともあるといいます。
つまりロックミュージックの方が音量は大きいかもしれませんが、クラシック音楽家のほうが「音にさらされる時間」が長いため、耳への負担が大きくなる可能性があるというのです。
ストレスが健康に影響を及ぼすことはよく知られていますが、聴力の健康にも当てはまります。Chasin氏によれば、クラシック音楽家にとってのストレスの多くは、演奏環境への不満や労働環境に関する問題から生じているといいます。
まず、クラシック音楽家は、演奏する曲目を自身で選べないことが多いという点があげられます。同僚との摩擦が起きやすい傾向もあり、例えばお互いの演奏に対する不満がストレスの原因になることもあるそうです。
反対に、ロックミュージシャンは、一般的に自分たちが演奏したい音楽を自由に選べるため、演奏環境に対する満足度が高くなる傾向があります。
「すべての理由が明らかになっているわけではありませんが、”何かを嫌だと感じているときには”、ストレスレベルが高くなることがわかっています。」とChasin氏は言います。「信じがたいことかもしれませんが、(内耳の蝸牛における)空気の生化学的な状態が変化し*、それによって難聴になりやすくなる可能性があるのです」。
* 耳の鼓膜の奥内耳の「蝸牛(かぎゅう)」は、音を感じ取るとても繊細な部分です。ストレスがたまると、この蝸牛の中の環境例えば、たとえば血流や酸素の流れ、神経の働きなどが変化し、音に対して敏感になり、耳に負担がかかりやすくなることがあると考えられています。
音楽を演奏する方、コンサートによく行かれる方、また日常的に音楽を聴く機会が多い方(特にイヤホンをよく使う方)は、もし気になることがあれば、迷うことなく耳鼻科での聴力チェックを受けていただくことをお勧めします。たとえ今は問題を感じていなくても、騒音による難聴(騒音性難聴:NIHL)は、通常ゆっくりと進行し、自覚しにくことが多いとされています。早めに、そして定期的に聴力を確認する習慣を持っていただくことは、将来にわたって音楽を楽しむための大切なステップになります。
騒音性難聴は、早期発見、早期の対応が大切です。実際に難聴による問題が発見された場合は、補聴器が良い選択肢になるかもしれません。
騒音性難聴から聴力を守るために今日からできること
・耳を保護する
フィルター付きの耳栓などを使用することで、音楽や周囲の環境音を自然に聞きながら、耳を守ることができます。あなたに最適なきこえの保護具については、補聴器専門店をはじめとする、聴覚ケアの専門家にご相談ください。現在は、音楽に特化した耳栓なども広く選ぶことができます。
・音の大きさをチェックする
スマートフォンの騒音計アプリなどを使えば、今いる場所の音量が耳にとって安全かどうかリアルタイムで確認できます。必要に応じて耳栓を付ける、騒がしい環境からいったん離れるといったことができます。
・騒音にさらされる時間を減らす
音の大きさが85デシベル以上になると、長時間このような環境にいることで耳に負担がかかる可能性があります。騒音計アプリなどを活用すること音量と時間のバランスを意識することが、聴力を守る第一歩です。
国内では日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会の啓発サイトでも、WHOの基準をもとに、難聴につながる危険な音量について紹介しています。たとえば、85デシベルの騒音に対する1日の許容時間の目安は8時間、95デシベルでは約50分とされており、音が大きくなるほど、耳に安全な時間は短くなることが分かります。長時間にわたって音を聞き続ける場合や、大音量の環境にいる際は、意識的に耳を休ませる時間をとることの重要性も伝えています。
クラシック音楽がお好きな方も、ロックミュージシャンの皆様、そして音楽をこよなく愛するすべての方へ、お気に入りの音楽を楽しみ続けるために、耳を大切にして騒音性難聴を遠ざけましょう。
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またご自身の耳の健康について相談できる方がいない場合、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が掲載している全国の補聴器相談医リストを参照ください。
本ブログ記事はアメリカ本社所属のオージオロジストが執筆したものを日本市場向けにアレンジしたものです。