英語には「with age comes wisdom(亀の甲より年の功)」という古いことわざがあります。このことわざは、「年長者の知恵や経験は尊重すべきものだから、年上の人の話はよく聞くようにしましょう」という意味です。でも、高齢になると難聴になったり、認知機能が低下する可能性が高くなるものです。なぜ、年長者の話を聞くことがこんなにも意味のあることなのでしょうか?オーストラリアン・ヒアリング(オーストラリア政府が出資する聴覚専門の公共医療機関)が実施した最近の調査では、90%以上の若者が年長者を信頼できる情報や知恵の宝庫として見ており、年長者の知恵や経験に基づく助言に若い世代が感謝していることが分かっています。この調査では、若い世代が人間関係や家族関係、人生経験に関係した助言を年長者に最も頼っていることも分かっています。
しかし、素晴らしい助言を年長者に頼ること以上に、年長者が今までに送ってきた人生経験を見習うことが必要です。ここに面白い調査結果があります。Health.comの調査によると、知能は年齢とともに伸びていくそうです。知能は、流動性と結晶性の2つに分かれており、実は、結晶性知能(一般的知識や判断力、理解力などで過去に習得した知識やスキル、経験をもとにして日常生活の状況に対処する能力)は60歳台後半から70歳台前半にピークを迎えます。つまり、結晶性知能に関して言うと、年長者の脳は若い世代と同じくらい処理速度が速く、その理由の一つとして、今までの豊富な人生経験に物事を結び付けることにより解決の糸口をより早く見つけることができるからかもしれません。
カルフォルニア大学ロサンゼルス校の認知症ケアプログラム責任者であるザルディ・タン博士は、次のように言っています。
「世界的に有名な投資家のウォーレン・バフェットと、ずばぬけた才能を持つ若手投資家を比べてみましょう。同じ投資家でも、バフェットは長い人生において沢山の経験を積んでいるので、物事をAからBに変化させる場合にバフェットの方がより早く対応できると思います。」
結晶性知能は豊富な人生経験から得たことを記憶することで成り立っています。それでは、私たちが年を取った時にその記憶力を最大限に活かすには、今から何に気を付けておけば良いのでしょうか?
運動や栄養バランスのとれた食事、健康的なライフスタイルが認知機能を最適化し、アルツハイマー病のリスクをも低減させると言われています。米国の女性誌、Women'sHealth(2015年9月号)に、記憶力を磨くヒントが紹介されていました。ここに、そのヒントを幾つかご紹介させていただきます。
◇効率良く記憶するために・・・
・ショパン、バッハ、モーツァルト:クラシック音楽を聴くことで記憶力はアップします。
・ローズマリーの匂い:2013年に英国心理学会の研究発表にて、被験者が与えられた課題を完全に覚えることにアロマの香りが一役かっていたことが報告されました。
・笑い:面白いビデオを見た後、コルチゾール値*が下がり、記憶力テストの成績が上がったと報告されています。また、ある研究結果から、ストレスを少なくすることで記憶力が向上するという報告もあります。
・語学習得:英語を母国語とする人が6週間中国語を習うと、中国語を習っていない人よりも、脳の神経回路網において神経物質の伝達が早くなるとか。異なる言語を習うことで神経回路網の連結が良くなります。
・深呼吸:瞑想することで海馬(記憶や空間学習能力を司る脳の器官)の容積が増え、記憶力がアップすることが研究結果で分かっています。
*コルチゾール値:副腎皮質から分泌されるホルモンで、炎症を抑制する作用があります。ストレスに関与し、過度なストレスを受けると分泌量が増加するので、別名「ストレスホルモン」とも呼ばれています。
◇効率良く記憶を呼び起こすために・・・
・テレビを見る時間を少なくする:脳と認知力についての研究(2005年)では、40~59歳の被験者において、テレビを見る時間が1時間増えるごとにアルツハイマー病の発症リスクが1.3倍増えることが分かりました。
・エクササイズ(軽い運動):ボストン大学の研究によると、40歳台で何らかの運動をしていないと、20年先に脳が委縮する可能性が高くなるそうです。脳の健康を維持するためにも、定期的な運動を心掛けましょう。
・手工芸を始めてみましょう:メイヨー・クリニック(全米でも有名な総合病院)では、40歳台で創造的な活動をしている人は、73%記憶障害になる可能性が低減されたことが分かっています。
・睡眠:30歳台、40歳台、50歳台と質の高い睡眠を続けると、それ以降の年代で高い精神機能を維持することができます。30歳~50歳台の眠りは深いので、体調や体力に対する回復力を持っています。深い眠りを続けることで、アルツハイマー病や脳細胞を損傷させる炎症に関係するタンパク質を排除する可能性を脳に与えているのかもしれません。
いかがでしたか?
「アクティブ・エイジング」とは、生活をより豊かに過ごすこととお分かりになられたと思います。次回の後編では、「アクティブ・エイジング」の必要性についてお話ししたいと思います。
明日、22日(秋分の日)に行われるスターキージャパン主催の「きこえのオープンハウス」ではアクティブエイジングのための補聴器使用の有効性とともに、難聴についての詳細を紹介させていただければと思います。
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