人生100年時代と言われる今、年齢を重ねても自分らしく、いきいきと過ごしたいと考える方は多いのではないでしょうか。
健康づくりというと、運動や食事を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、家族や友人との会話を楽しんだり、趣味や地域活動に参加したり、好きなことを続けたりするためには、「きこえの健康」も、大切です。
敬老の日をきっかけに、これからも健やかで自分らしい毎日を楽しむための「きこえ」について一緒に考えてみませんか。ここでは、「きこえ」を大切にしたい4つの理由をご紹介します。

1.きこえの変化には、早めに気づくことが大切です
きこえの変化はゆっくり進むことが多く、自分では気づきにくい場合があります。
そのため、「少し聞き取りにくくなったかな」と感じていても、そのまま様子を見てしまう方は少なくありません。研究によると、難聴を自覚してから実際に対策を始めるまでに、平均約10年かかるという報告もあります。だからこそ、きこえの変化に気づいたら早めにきこえの状態を確認し、ご自身に合った対応を検討することが大切です。
また、補聴器を使い始めた場合、新しい聞こえ方に慣れるまでには少し時間がかかることがあります。それまで聞き取りにくくなっていた人の話し声や、風の音、足音など、さまざまな音が再びきこえるようになるため、最初は音の感じ方に戸惑うこともあるかもしれません。
補聴器を使いながら、いろいろな音を聞くことで、私たちの脳は、再び届くようになった音の情報を活用しながら少しずつ新しいきこえ方に慣れていきます。必要な音に自然に耳を傾けられるようになるまで、最初から無理をせず、少しずつ補聴器のある生活に慣れていくことも、上手に活用するための大切なステップです。
では、なぜきこえの変化に早めに対応することが大切なのでしょうか。近年、きこえと脳の健康との関係が注目されています。英国の医学誌『ランセット』の認知症予防・介入・ケア委員会では、難聴を認知機能低下の重要なリスク要因の一つとして挙げています。
難聴が脳に与える影響
難聴になると、音の情報が脳に十分に伝わりにくくなります。そのため、聞こえた内容を理解しようとすることで、脳により多くの負荷がかかると考えられています。また、脳は届く音の情報の変化によってその働き方を変化させることがあります。難聴とこうした脳の変化や、思考力・記憶力の変化との関連について研究が進むなか、きこえを適切にサポートし、音の情報を脳に届けることが、認知機能にどのような影響を与えるのかについても注目されています。
実際に、補聴器を活用してきこえをサポートした場合の、認知機能への影響についても研究が進められています。オーストラリアで62歳~82歳の難聴者を対象に行われた研究では、補聴器の使用開始から18か月後、認知機能は全体として低下がみられず、一部の認知機能では改善が確認されました。研究者らは、補聴器による難聴への対応が認知機能の低下を遅らせる可能性を示唆しており、さらなる研究が続けられています。
きこえは、脳の働きだけでなく、人とのコミュニケーションにも関わっています。きこえにくくなると、会話に参加しづらくなったり、人との交流をためらったりすることもあるかもしれません。
人との会話や交流は、毎日の楽しみや社会とのつながりを支える大切なものです。いつまでも大切な人との会話を楽しむためにも、「きこえ」に目を向けてみることが大切です。きこえにくいときには、聞き取りやすい言葉に言い換えたり、テレビを消すなど、みんなが会話しやすい環境をつくったり、窓のそばなどの明るい場所でお互いの表情を見ながら会話をしたりすることも役立ちます。
人とのつながりは、会話や交流を楽しむだけでなく、心豊かに毎日を過ごすうえでも大切です。きこえと心の健康との関係についてもさまざまな研究が進められています。
米国国立老化研究所(NIA)は、孤独や社会的孤立が心の健康と関連することを示しており、家族や友人など周囲とのつながりを保つことや、ご自身が楽しめる活動への参加を勧めています。また、米国スタンフォード大学のロバート・ジャックラー医師は、人とのコミュニケーションは、心だけでなく、脳や身体の健康にとっても大切であると述べています。
よりよいきこえは、人とのコミュニケーションをとりやすくし、社会とのつながりを保ちながら、いきいきと毎日を過ごすための支えになります。例えば、こんな楽しみや活動があります。
- ・家族や友人との交流を続ける
- ・趣味や地域活動に参加する
- ・ウォーキングなどの運動を楽しむ
- ・ボランティア活動に取り組む
- ・新しいことに挑戦する

4.きこえは、安全で活動的な毎日にも関わっています
私たちは、目から入る情報だけでなく、周囲の音も手がかりにしながら日々生活しています。人や車が近づく音など、周囲の状況に気づくためにも「きこえ」は大切な役割を果たしています。厚生労働省も、難聴の影響の一つとして、危険を察知する力が低下する可能性を挙げています。
こうした周囲の音への気づきは、安全に歩いたり、身体のバランスを保ったりすることにも関わっています。実際、きこえと転倒との関係についても研究が行われており、米国の50歳以上を対象にした大規模研究では、未対処の難聴と転倒リスクとの関連が報告されています。日本でも、年齢を重ねるにつれて転倒の注意が大切になることが知られており、また転倒は身近な生活の中で起こりうることから、日頃から注意することの大切さが呼びかけられています。
きこえとバランスの関係
耳の中では、きこえと身体のバランスに関わる仕組みが密接に関係しています。また、音を理解するためにより多くの認知的な働きが必要になることも、難聴と転びやすさとの関連を説明する可能性の一つとして考えられています。米国ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームも、「周囲への気づき」と「認知的負荷」をその可能性として挙げています。
「まずは自宅で簡単に確認してみたい」という方は、オンラインで約5分でできるきこえのチェックをお試しいただくのも一つの方法です。結果で気になる点があれば、耳鼻咽喉科での聴力検査をおすすめします。
また、補聴器について詳しく知りたい方や、実際のきこえを体験してみたい方は、お近くの補聴器販売店へ相談することもできます。郵便番号を入力いただくだけで、お近くの補聴器販売店を探すことができます。
きこえについて相談できるかかりつけ医をお探しの場合は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が公開している全国の補聴器相談医リストもご活用ください。
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