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補聴器は多機能デバイスへ(1)CTOアーチン博士学術論文

この記事では2022年11月に行われたスターキージャパン30周年記念 補聴器販売従事者向けセミナーにて、スターキーCTOアーチン・ボーミック博士が講演内で取り上げた自身の論文について複数回にわたってご紹介していきます。

 

補聴器の現在(いま)までと、未来の補聴器の姿を

最新テクノロジーを通してお伝えします。

 

2022年11月 アーチン博士講演の様子

新しい技術によって、現代の補聴器は、必要な人により良いサポートができます。補聴器は、身につける必要のあるものから、誰もが身につけたくなるパーソナルアシスト機器へと進化しています。

 

 

人間の知覚システムは驚くべきもので、私たちの周りの世界を簡単に感じ、理解することができます。私たちの人体がもつセンサー機能は、感覚の刺激を電気信号(神経インパルス)に変換しています。大脳皮質にある高度な計算システムが、この感覚の電気信号の入力を効率的に処理し、解釈しています。私たちの知覚と認知のシステムによって、周囲の環境モデルは構築され、理解、追跡することができます。1

 

画像1

 

 

私たちは、これらの情報処理に基づいて行動を起こし、継続的に経験から学び続けます(上図)。特に聴覚は顕著なのですが、このプロセスは非常に簡単に見えてしまうため、私たちは自分の知覚能力を当然のことと思いがちです。

 

聴覚のおかげで、私たちは、複数の音源から音波を解読し、幅広い周波数と大きさの情報を含む複雑な信号を解読することができます。

人間の耳は、エンジニアであれば誰でも畏敬の念を抱くような、驚くべき能力を持った器官です。健康な人間の耳と聴覚処理システムでは音圧レベルが10億分の1以下の音でも聴き取ることができます。音圧レベルは、大気圧の変化の10億分の1よりも小さいのです。この驚異的な聴覚閾値は、原子1個分の直径の空気振動に相当します。

一方、音圧レベルの上限、私たちが許容できる最も大きな音は、その1兆倍にもなります。この驚くべきダイナミックレンジは、音波が外耳道を通過し、鼓膜を振動させ、中耳にある3つの小さな耳小骨を動かす段階を経て増幅されます。

その結果、液体で満たされた蝸牛の中で進行波が発生し、蝸牛外側でさらに増幅されます。外有毛細胞でさらに増幅され、最終的に内有毛細胞で神経パルスに変換されます。そして、神経線維によって大脳皮質に運ばれるのです(下図)。

 

anatomy ear


音の強さだけでなく、健康な人間の聴覚システムの周波数範囲は3つにまたがっています。20Hzから20 kHzまで3桁もの周波数帯域があります。500Hzから6 kHzの範囲で最も感度が高くなります。人間の音声の周波数帯です。蝸牛は周波数分析器として働き、音響波をその長さ、方向に沿って狭い周波数帯域に分解します。


この信号処理の周波数局在性(トノトピー)は聴覚野に至るまで保存され、高度な音の知覚能力を可能にします。
私たちの聴覚は非常に優れていますが、その能力は一般的に加齢や騒音にさらされることで低下します。実際、難聴は米国で3番目に多い慢性的な身体疾患です。糖尿病や癌よりも多いのです。2

 

聴力損失:健康への影響と併存する疾患

 

盲聾だった障害者の権利擁護活動家のヘレン・ケラー(Helen Keller)は、こう記しています。

 

目が見えないことは人と物を切り離す。

 耳が聞こえないことは人と人をも切り離す。

 

ヘレンケラー

 

コミュニケーション喪失の先にあるもの、聴覚障害を対処しないままでいると生活の質に悪影響を及ぼします。転倒、社会的孤立、うつ病、認知障害などのリスクが高まります。3

実際、難聴は修正可能な最大の疾患であると認識されています。難聴は、認知機能低下の最大の修正可能なリスク要因であり理想的には、中年期に対処することが望ましいとされています。3 さらに、疫学的研究により、以下のことが示されています。


難聴に対処していない場合、運転、服薬管理、歩行、入浴などの日常生活動作に大きな支障をきたすことが明らかになっています。4

 

難聴はまた、以下を含む多くの慢性的な健康状態とも相関しています。
脳卒中(CVD)5 転倒6 、糖尿病7、認知機能の低下8などです。正常な聴力を持つ人に比べ、軽度、中等度、高度の難聴者は、難聴でない人と比較して、認知症の発症リスクは2倍、3倍、5倍に増加しました。9

別の研究では補聴器を使用していない加齢性難聴者では、難聴でない人と比較して、有意な記憶障害があることが示されました。10

 

しかし、補聴器を使用している難聴者では、記憶機能が有意に向上し、正常な聴力を持つ人にほぼ近づいたのです。このような実証的な証拠がますます増えています。すべて補聴器が難聴者にとって有益であることを支持するエビデンスです。

ただ多くの要因により、過去数十年間、補聴器の普及率は低いままでした。現在、米国では難聴者の3分の1しか補聴器を装用していません。11

 

なぜ、補聴器の普及率は低いのでしょうか。

 

次回の同コラム記事では、補聴器の歴史を振り返り、現在の補聴器テクノロジーを説明して参ります。

 

 

補聴器がどのように役立つのか、ご自身の耳で確かめてみませんか?

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*元になっている学術論文は下記からご確認いただけます。

IEEE(電気電子技術者協会

https://ieeexplore.ieee.org/document/9585189

 

出典:
1. E. B. Goldstein and J. Brockmole, Sensation and Perception, 10th ed. Boston,
MA: Cengage Learning, 2016.
2. E. A. Masterson, P. T. Bushnell, C. L.Themann, and T. C. Morata, “Hearing
impairment among noise-exposed workers — United States, 2003–2012,” MMWR Morb Mortal Wkly Rep.,vol. 65, no. 15, pp. 389–394, 2016. doi:
10.15585/mmwr.mm6515a2.
3. G. Livingston et al., “Dementia prevention, intervention, and care:
2020 report of the Lancet Commission,”Lancet, vol. 396, no. 10248,
pp. 413–446, 2020. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30367-6.
4. D. S. Chen et al., “Association of hearing impairment with declines in physical functioning and the risk of disability in older adults,”J. Gerontol., vol. 70, no. 5, pp.654–661, 2015.
5. E. P. Helzner et al., “Hearing sensitivity in older adults: Associations
with cardiovascular risk factors in the health, aging and body composition
study,” Amer. Geriatrics Soc., vol. 59, no. 6, pp. 972–979, 2011. doi:
10.1111/j.1532-5415.2011.03444.x.
6. F. R. Lin and L. Ferrucci, “Hearing loss and falls among older adults in
the United States,” Arch. Intern. Med.,vol. 172, no. 4, pp. 369–371, 2012. doi:
10.1001/archintern-med.2011.728.
7. K. Wattamwar et al., “Association of cardiovascular comorbidities with
hearing loss in the older old,” JAMA Otolaryngol. Head Neck Surg., vol. 144,
no. 7, pp. 623–629, 2018. doi: 10.1001/jamaoto.2018.0643.
8. F. R. Lin et al., “Hearing loss and cognitive decline in older adults,”
JAMA Intern Med., vol. 173, no. 4,pp. 293–299, 2013. doi: 10.1001/ jamainternmed.2013.1868.
9. F. R. Lin, E. J. Metter, R. J. O’Brien, S. M. Resnick, A. B. Zonderman, and L.
Ferrucci, “Hearing loss and incident dementia,” Arch. Neurol., vol. 68, no.
2, pp. 214–220, 2011. doi: 10.1001/ archneurol.2010.362.
10. J. Ray, G. Popli, and G. Fell, “Association of cognition and age-related
hearing impairment in the English longitudinal study of ageing,” JAMA
Otolaryngol. Head Neck Surg., vol.144, no. 10, pp. 876–882, 2018. doi:
10.1001/jamaoto.2018.1656.
11. T. A. Powers and C. M. Rogin, “MarkeTrak10: Hearing aids in an era of disruptionand DTC/OTC devices,” Hearing Rev., vol. 26, no. 8, pp. 12–20, 2019.

 

 

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