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トピック

聴覚ケアは認知症予防に本当に役立つのか?(2017年ランセット報告書を翻訳)

最近になって、世界的にも有名なイギリスの週間医学誌「The Lancet(ランセット)」に、次のような論文記事が掲載されました。
 
難聴に対処することが認知症を予防するイメージ
認知症とは、「21世紀の保健・社会ケアにおいて、最も世界規模で取り組まなければならない課題である」と。
 
ンセットの認知症予防ケア委員会が行った調査研究によると、世界中には5000万人に及ぶ認知症の症例があり、2050年には患者数が3倍になると報告されています。つまり、認知症患者の総数が1億人以上にものぼる日が30年以内に到来するということです。
 

有識者によるこの委員会の目的は、認知症の予防や管理に必要な助言や提案を行うことです。認知症患者への影響だけでなく、家族や友人に対しても早急な対策が必要であることが示唆されています。

 

 

難聴に早めに対処することが重要なイメージ

 

早いうちに行動して将来の認知症を予防する

世界的コミッションのために世界中から集まった24人の専門家は、人々が9つのライフスタイル要因に対処すれば3分の1の認知症は予防できる、とまとめています。

 

そのうちの1つが中年期(40-65才)における難聴です。

 

その他の8つには、子供時代の教育を増やす、運動を増やす、社会との関係を維持する、喫煙を減らすかやめる、うつ病、糖尿病、高血圧、そして肥満への対処です。

 

認知症は一般的には65才以降に症状が表出しはじめますが、この研究の著者らは病気自体は40-65才の間に始まるようだと述べています。著者らは人生の様々なステージにおけるこれら9つの事前に対処可能なリスク要因に対応することで「認知症を予防したり遅らせたりするのに役立つ」可能性があると結論を出しました。

 

認知症と難聴の関係

なぜ難聴を放置しておくと認知症のリスクが高まるのか、委員会は科学がまだ満場一致の答えを見出せていないことを認めています。

 

しかし研究によると、難聴は脳の認知機能の負荷となり、社会的孤立やうつ病につながり、脳の萎縮が加速することが確認されています。

 

現在、少なくとも、「認知症の発生率を減らしたり、発症を大幅に遅らせる」方法を示す研究があります。ほとんどすべてが私たちが管理でき予防することができるようです。 認知症の影響を受けることを心配する方々にとって、これは実はすばらしいニュースなのではないでしょうか?

 

耳の不自由には予防・対処することができます

聴力損失は、訓練を受けた聴覚専門スタッフの助けを借りてはじめて対処できるものです。 あなたがもし聴力が衰えてきたかなと感じているとしたら、この新しい研究ではできるだけ早く、難聴について何か対処する大きな理由を示していると言えるでしょう。 

 

過去の関連記事:

難聴と認知症の関係について

 

 

以下、ランセットレポート内の「難聴」対象箇所を翻訳、解釈させていただきました。参考にしていただければ幸いです。

 

  

リスク要因の共通性

2014年イングランド健康サーベイ(HSE)の値(イギリスに暮らす成人の1万人以上の代表サンプル)をリスク要因の共通性(共通要因で説明される観測変数中の分散)の計算に使用し、各要因の独自リスクを計算できるようにした。HSEのデータは、社会的接触頻度を除く全ての関連リスク要因を含んでいるため、我々は社会的接触の代理尺度として同居人の有無を用いた。これは別の人と同居している参加者は一人暮らしの参加者よりも社会的接触のレベルが高いという仮定に基づいている。この方法で抽出した主成分分析で、3つの主成分が9つのリスク要因間の全分散の53%を説明していることが明らかになった。これはかなりの重複を示唆している。

表1(図の詳細は参照元を確認ください)は有病率、共通性、RRを示している。各含有リスク要因の共通性で調整したPAFも記載した。さらに、我々は他の研究で報告されているものと同じ式を使って全体PAFを計算した。ただし難聴と社会的孤立の追加変数を組み込んでいる(パネル1)。図4は一生におけるリスク要因の新しいモデルを表現している。

結果は、認知症の約35%が以下9つのリスク要因の組み合わせに起因していることを示している:教育が11-12才まで、中年期の高血圧、中年期の肥満、難聴、高齢期のうつ、糖尿病、運動不足、喫煙、社会的孤立。逆に、アポリポタンパク質E(ApoE) ε4アレルを主要遺伝リスク要因として完全に取り除くと、発症率が7%減るとPAF計算を用いて算出された。

 

潜在的修正可能リスク要因の脳への効果

図5は、認知症の潜在的修正可能リスク要因のつながりの提案メカニズムの概要を示している。脳の血管損傷は微小血管及び大血管の病変だけでなく、萎縮や神経変性のリスクも増大させる。酸化ストレスと炎症は、アミロイドβの蓄積と関係がある。糖尿病とメタボリック症候群はアテローム性動脈硬化と脳梗塞と関係があり、グルコース媒介毒は微小血管異常と神経変性を引き起こす。アルツハイマー病ではインスリン受容体活性不全がみられることから、アルツハイマー病がインスリン抵抗性の脳状態を意味している可能性があるといえる。中年期により運動することは認知症のリスクを減らすことと関係がある。運動には、(潜在的には脳由来神経栄養因子(BDNF)の放出促進を通して)神経防護効果があると仮定され、コルチゾールを減らして血管リスクを減らす。運動だけでは健康な高齢者の認知機能を改善するわけではないようだ。

 

特定のリスク要因とメカニズム

ここでは特定のリスク要因とその効果を論じる。

 

教育

教育が少ないことは1.59である認知症のRR(95% CI 1.26-2.01)と関係があり、高いPAFの原因は40%という高い世界規模の評価有病率である。教育時間が少ないことを我々は中学校教育を受けていないことと定義したが、これは我々のモデルで2番目に高いPAFを持つ。教育レベルが低いことは結果として認知機能低下に対する脆弱性を持つことになると考えられる。なぜなら、病変があっても機能を維持できることを可能にする認知的予備力が少ないからである。高校以降の教育でリスクがさらに減るかどうかかどうかはまだ不明である。

 

聴力

認知症のリスク要因として難聴が認識されるようになったのは比較的新しく、これまでのPAFの計算には含まれておらず、認知機能障害のリスクがある人々の管理において重要とされていない。認知機能は維持しているが聴力がベースラインで低い人では、たとえ軽度であっても難聴は認知機能低下と認知症の長期リスクを増加させる、ということを、聴力を調査したコホート研究の結果は通常示している。しかしながら11のポジティブな研究がある一方で、2つの研究では修正分析においてリスクの上昇は認められなかった。

我々が本コミッションのために行った3つの研究の、メタ分析における認知症に対する難聴のリスク(pooled RR 1·94, 95% CI 1·38–2·73; 図3)は他の個別リスク要因から来るリスクよりも高いだけではない。難聴は56歳以上の32%に起こる非常に一般的なことであり、多くの人に関係するものでもある。このRRと有病率が高いためPAFが高くなっている。我々はPAFを計算するのに56歳以上の人の難聴の有病率を使用した。これは、難聴があることで認知症のリスクが高まることが示されている最も若い平均年齢が55歳だからである。このため難聴は中年リスク要因に分類されるが、難聴は高齢期においても認知症のリスクを継続して高めることがエビデンスで示されている。

末梢性難聴と関連した認知機能低下のメカニズムはまだはっきりしておらず、補聴器のような是正処置で認知症の発症を防いだり遅らせたりすることができるかどうかははっきりしていない。高齢と微小血管の病理は認知症と末梢性難聴の両方のリスクを高めるため関連性を取り違えることも考えられる。難聴は脆弱な脳の認知負荷を増すことで、脳における変化を引き起こしたり、あるいは社会的な離脱やうつをもたらすことで病状を悪化させたりする可能性がある。これらはすべて認知機能低下を加速させる一因になり得る。難聴があると正式な認知機能評価の成績に悪影響があるかもしれないがベースラインの難聴者は通常のベースラインの認知機能を持っていたので、これは調査結果の主要因にはならない。

補聴器の使用がこれらのネガティブな影響を緩和するかどうかの実験的証拠はない。医療介入はいずれも複雑なものであり、単に補聴器を使用するよう勧めればよい、というものではない。なぜなら難聴者のうち診断や治療を受けているのは少数であり、補聴器が処方されても使用しない人が多いからである。

中枢性難聴は末梢性難聴とは区別される。雑音中の会話の理解が難しいことは、蝸牛(末梢)難聴では説明できず、また(補聴器など)末梢での増幅では改善しない。これは修正可能リスク要因とは考えにくく、特に競合音がある場合において、音声認識力を低下させるアルツハイマー病の前駆症状の可能性はある。この理論は、中枢聴覚野はアルツハイマー病の病理で影響を受けるというという事実と矛盾がない。研究で明らかになった抹消難聴と認知症の間の関連性を中枢難聴が説明するということは非常に考えにくい。なぜなら中枢性難聴の後にアルツハイマー病が発症するのは高齢者の2%とまれであり、一方、中年と高齢人口中の我々のメタ分析に含まれる研究における末梢性難聴の有病率(含まれる3つの研究の平均年齢は55才、64才、75.5才)はずっと大きい(ある研究によると28%, 43%,58%)からである。軽度の中枢性難聴は2%よりも多いのかもしれないが、これは認知症のリスクが増加することと関連付けられていない。

小さなパイロット介入であるHearing Equality through Accessible Research & Solutions(HEARS)は、認知が健康な平均年齢70歳成人の聞き取り機器の使用を促すため、視覚的素材とトレーニングを参加者と家族に対して使用した。パイロット介入の結果は、機器使用を増やすことが可能であるかもしれないことを示した。

 

データの限界

長期研究における因果関係

PAFモデルはリスク要因と認知症間の因果関係を前提にしており、認知症の発症を実際に減らすためには介入に原因関係が必要となる。因果関係に関して、最も説得力のあるエビデンスは無作為化比較試験(RCTs)から得られたものであろう。この試験は教育など、提案されている認知症リスク要因の多くで実施することができないが、年齢別に見た時発症率が減少しているのは教育が増えたことと関係があることを我々は知っている。このように実験的な人間でのエビデンスがないことから、因果関係基準が提案されている。難聴や社会参加を含んだ、PAF算出に我々が含めた新興のリスク要因はこれらの規準に合致しており、もっともらしい原因関係を示している。例えば難聴において、我々のメタ分析において関連の強さは1.94のエフェクトサイズ(95% CI 1·38–2·73)を示した。一貫性については、我々のメタ分析で特定した3つの高品質コホート研究は、末梢性難聴と認知症の間の統計的に有意な関連を報告している(オーバーラップ95%CIs)。時間性に関しては、研究において難聴の程度を測定し、認知症がない人を少なくとも9年間追跡調査し、この調査期間中の認知症発症を調査した。生物学的段階的変化を考慮すると、認知症のRRを軽度難聴で1.89、中度難聴で3.0, 重度難聴で4.94増加させる用量反応が存在する。もっともらしさでいうと、動物モデルにおいて難聴は、脳の構造、容積、ネットワークの変化に先立つものである。聴力の改善(及び社会的・運動に関する介入)はマウスモデルにおいて、アミロイド沈着と関連した環境強化によって認知機能を改善するかもしれない。人間は他の種に比べて言語の重要性があるため、追加の人間特有の機構経路はありうる;言語は人間における大きな脳、社会的相互作用、大規模な集団協調の共進化の主要素である。このため人間における難聴は、比類なく相互作用的で有害な社会的、認知的、脳的な影響を及ぼすのかもしれない。

 

リスク要因の修正可能性

PAFは、リスク要因が取り除かれた場合の新規症例の減少率を表している。この新規症例数は、発症するであろう、とエビデンスから導かれるものである。この数字は注意して解釈する必要がある。なぜなら完全にこれらのリスク要因を取り除くことは現実的ではなく、一部のリスク要因は認知症の症状の一部ともなり得るものだからである。ただし、我々が何をターゲットとできるか、そしてすべきかということを理解することは、リスク負担を減らすためのよりよい管理と予防戦略を検討する機会となる。

 

PAF評価における差

潜在的修正可能リスク要因の組み合わせ効果に対する我々の評価値は、それまで報告されていた評価値よりも高かった。しかしわれわれは追加の2つのリスク要因を組み入れている。このうちの一つ、難聴は中年と高齢期においてかなり一般的であり、このために高いPAFを持つと予想される。また我々の評価値において、HSEからの共通性の計算は2014年分から行っており、控えめである。一方以前の評価値は2006年からのデータを用いている。我々は、共通性の計算を66歳以上の成人に対して行うことで、評価値を可能な限り控えめなものとした。なぜならこの年齢グループは最も認知症になりやすく、この年齢グループの方が全成人の場合よりもリスク要因間の相関はより関連がありそうだからである。

 

一生のうちいつのリスク要因が重要か

一生のうちでそのリスク要因が重要であると示されている特定の時期について、我々は利用可能なエビデンスを提示してきたが、それは他の時期と関連があることも考えられる。例えば、現在継続中の教育によって認知的予備力は増し続けているのかもしれない。同様に、糖尿病、高血圧、うつ、座り姿勢の多さ、喫煙は、おそらく中年および高齢期における重要なリスク要因である。また、難聴は中年期だけでなく、高齢期においてもリスクかもしれない。

 

本モデルに含まれない他のリスク要因

我々はその他の潜在的なリスク要因、食事、アルコール、幹線道路の近くに住む、睡眠など、を組み入れていない。このため今回の認知症の潜在的予防可能割合は過少評価となっているかもしれない。

 

逆の因果関係

因果関係の方向は時に不明確で時に双方向的である。例えば、社会参加の減少やうつの症状の増加は認知機能低下を引き起こすかもしれないし、これによって引き起こされるかもしれず、よって我々の数字は過大評価となる可能性がある。発病よりそれほど昔でないときに起こったリスク要因を考えるとき、因果関係の方向を確定することは難しい。例えばうつが認知症のリスクを上げるのか、認知症がうつのリスクを上げるのか、あるいは関連は双方向なのか、である。

 

リスク要因の共通性

我々の共通性計算は、取り除くことができるリスク要因についての共有されたメカニズムを考慮に入れている。しかし、遺伝子のせいで高血圧、うつあるいは難聴と認知症の両方にかかりやすくなることもあり得る。

 

保有率の全世界的評価

我々が使用したリスク保有率は見つけられた中でできるだけ大きい母集団のものである。しかし必ずしも全世界的なものではなく、場所が違えば文化や収入も異なり保有率は異なるであろう。

 

データの質

最後に、データの量が異なるため難聴に対する評価は高血圧、糖尿病のものと比べて安定していない。なぜなら提示した評価に寄与する研究の数が少なかったからである。

 

PAF 調査結果の重要性

真のPAFが我々の評価値よりも低いにしても高いにしても、一般原理として認知症は修正可能なリスク要因が重要な比率を占めているといえる。リスク要因を修正することは結果として、認知症の世界規模の負荷に大きな影響を与えることになり得る。この負荷は社会的およびへルスケアのコストに大変な関連があるであろう。

公的な健康介入が、すべての潜在的に修正可能な認知症の発症を遅らせたり、予防したり、治療したりすることはできない一方で、代謝、メンタルヘルス、聴力、および脳血管のリスク要因を管理することで多くの症例の発症を数年遅らせることができるかもしれない。発症が5年遅れれば認知症の有病率は半分になる。推定によると、7つの基本的健康およびライフスタイル要因の保有が10%減ると世界での認知症の有病者が100万症例以上減り、あるいは認知症の発症を1年遅らせる介入で認知症を持って生活する人の数を2050年に地球規模で900万人減らせるという。我々はリスク要因への対処で現実にこれほど劇的な効果が出ることを期待しているわけではないが、認知症のリスクをいくらかでも減らすことができれば大きな成功と言える。

 

★翻訳メモ★

PAF: population attributable fractions 人口寄与割合;もしも特定のリスク要因が完全に取り除かれた場合の、与えられた期間における新しい症例の減少の%
  • RR: relative risk 相対リスク
  • Incident dementia case:<新規症例>新しく診断されたケース
  • Prevalent cases :<既存症例>研究時点ですでに病気が発病あるいは診断済みのケース

 

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トピック: 難聴と健康