(この記事は2017年4月に公開された記事ですが、2024年7月に更新された情報となっております。)
難聴は日常生活や仕事の支障となるばかりでなく、近年は難聴が健康に及ぼす様々な影響が知られるようになりました。こうした中で、早めに補聴器を使って難聴に対処することの有用性が様々な場面で取り上げられています。
補聴器は高度な技術が集積された精密電子機器で、国が定める技術基準に適合した医療機器です。また装用者各人の聴力に合わせて調整を行い、装用開始後も度々の再調整を行う必要があります。
このために補聴器はある程度高額にならざるを得ず、購入には大きな投資が必要です。実際、補聴器の価格はそれなりの投資が必要とわかると、補聴器使用をためらってしまう方がいることは事実です。
現在、補聴器は公的医療保険でカバーされる医療機器ではありませんので、購入は全額自己負担が基本です。しかし、難聴の程度が一定の条件に合致すれば購入費用が支給される制度があり、2018年度からは補聴器の購入費用を申告すれば所得税と地方税の税額控除を受けられるようにもなりました。
また港区モデルをはじめとした業界団体と行政の連携により実現した自治体の助成制度は拡充してきています。これらの申請方法や対象条件などについてまとめてみました。
◇障害者総合支援法による補装具費支給制度
まず、補聴器購入に関係する日本の法律や制度を見ていきましょう。
●身体障害福祉法と障害者総合支援法との違い
補聴器購入に関係する法律として、身体障害者福祉法と障害者総合支援法があります。
身体障害者福祉法には身体障害者の定義や行政上の責務についての基本的なことが定められています。法律上、身体障害者とは身体障害者手帳の交付を受けた人とされています。即ち身体障害者福祉法は身体障害者手帳を持っている方を対象とした法律です。
障害者総合支援法には、どのような福祉サービスや公的助成が受けられるかが定められています。公的助成の一例として補装具費支給制度があります。難聴者の場合であれば、補聴器がこの補装具に該当します。聴覚の状態など一定の条件を満たせば、補聴器の購入にかかる費用のうち、原則9割を国や自治体で負担してもらうことができます(所得や自治体によって例外もあります)。
注意が必要なのは、総合支援法で補聴器購入費の支給を受けられるのは身体障害者としての認定を受けて障害者手帳を交付された方に限られる点です。聴覚障害者等級に示す通り軽度の難聴者は対象にならないことが多く、「少し聞こえに問題がある」程度では支給を受けることが出来ません。こうしたことからも、まずは耳鼻咽喉科医に相談してご自身の聴力を正しく把握することが大切です。
●補聴器購入費用支給の流れ
障害者総合支援法による補聴器購入費用の支給を受けるには、身体障害者手帳を所持する必要があります。そこで、次に身体障害者手帳の取得方法から、補聴器購入費用支給の申請の流れ・手順を見ていきます。
【身体障害者手帳の取得の流れ】
ステップ1:市区町村の障害福祉の担当窓口から、「身体障害者診断書・意見書」及び「障害者手帳交付申請書」の用紙を入手します。この時、ステップ2の指定医(身体障害者福祉法第15条第1項の規定による指定医師)についても担当窓口に相談してください。
東京都の場合、東京都心身障害者福祉センターでフォームが公開されています。
ステップ2:
指定医の診断を受け、「身体障害者診断書・意見書」に記入してもらいます。これが身体障害者手帳を持つ必要がある旨の根拠資料になります。指定医とは、「身体障害者診断書・意見書」を書くことのできる医師のことです。指定医になるには、障害に係る診療科での実務経験があり、審議会で承認される必要があります。
ステップ3:市区町村の障害福祉の担当窓口に以下の書類を提出します。
・交付申請書
・身体障害者診断書・意見書
・写真
・印鑑
・マイナンバー
書類提出後、審議され、結果が出るまで約1〜4ヶ月かかります。
無事に審議が通ると、聴覚障害等級が決定され、身体障害者手帳が交付されます。
時間がかかることを想定して、早めに準備や対応を行いましょう。
●補聴器の購入費用給付申請の流れ
いよいよ申請の準備が整いましたが、
障害者総合支援法に基づいて補聴器の公費負担を受けたい場合は注意する点が2つあります。
1つ目は先に書きました、身体障害者手帳を所持していることです。
2つ目は事前申請であり、補聴器購入後の申請は認められていないことです。
ステップ1:市区町村の障害福祉の担当窓口から、「補装具費支給意見書」の用紙を入手します。(自治体により、申請用紙の名称が異なります)
ステップ2:指定医に「補装具費支給意見書」に必要事項を書いてもらいます。
ステップ3:「補装具費支給意見書」の書類を持って、補聴器を取り扱っている店舗で補聴器の見積書を作成してもらいます。
ステップ4:障害福祉の担当窓口に行って、以下の書類を提出します。
・補装具費支給意見書
・補聴器給付申請書
・補聴器の見積書
書類提出後、審査されて問題がなければ、「補装具費支給券」が郵送で送られます。
ステップ5:「補装具費支給券」を持って、店舗で補聴器を購入します。
支払う代金は原則、補聴器購入基準価格で指定された金額の、1割相当です。
この流れは補聴器販売店によっては手続きを代行してもらえる場合がありますので、相談してみるのもよいでしょう。
●補聴器購入基準価格について
補聴器のタイプにより、法律上標準価格が決められています。補聴器購入基準価格と言われています。
補聴器につけるオプションの有無により、補聴器購入基準価格も変わります。その価格の1割を、購入者が原則負担することとなっています。ただし、生活保護や低所得者の場合、原則全額が公的助成となります。逆に所得が多い場合には、公的助成を受ける対象から外れることもあります。
詳しくは各地域の自治体にご確認ください。
補聴器購入基準価格表
名称 |
価格 |
基本構造 |
重度難聴用 耳かけ型 |
71,200円 |
JIS C 5512: 2015による。90デシベル最大出力音圧のピーク値の公称値が130デシベル以上のもの。その他は高度難聴用ポケット型及び高度難聴用耳かけ型に準ずる。 |
高度難聴用 耳かけ型 |
46,400円 |
JIS C 5512: 2015による。90デシベル最大出力音圧のピーク値の公称値が130デシベル未満のもの。90デシベル最大出力音圧のピーク値が120デシベル以上に及ぶ場合は出力制限装置を付けること。 |
耳あな型 (オーダーメイド) |
144,900円 |
高度難聴用ポケット型及び高度難聴用耳かけ型に準ずる。ただし、オーダーメイドの出力制限装置は内蔵型を含むこと。 |
なお、基準価格を上回る価格の補聴器を希望する場合には、差額自己負担で購入することを認めている自治体もありますので、市区町村の担当窓口で相談してください。
◇確定申告での補聴器購入費の医療費控除について
●補聴器の購入費用が医療費控除の対象に
その年の1月1日から12月31日までの間に自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合において、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。
【医療費控除について】
同じ年の1月1日〜12月31日までにかかった医療費が高額になった場合、所得控除が受けられ、所得税の軽減や税金の還付が受けられます。つまり、確定申告によって税金による控除を受けられます。
申請先や申告先は、税務署となります。控除や還付のタイミングは確定申告提出後、1〜2ヶ月後となります。
●全般的な医療費控除が対象となる例
全般的な前提条件として、治療や療養が目的となっているものです。また、それに関連するものとなります。
一例としては以下になります。
・医師や歯科医、鍼灸師など資格を持った人による治療代や薬代
・療養施設に支払った療養代
・出産にかかった費用
・治療を目的としたメガネやコンタクトレンズ
・通院するためにかかったバスや電車、タクシーなどの交通費
医療費控除の対象となる範囲は、法律の改定などによって変わる場合があります。
医療費控除の金額は、次の式で計算した金額(最高で200万円)です。
(実際に支払った医療費の合計額-(1)の金額)-(2)の金額
(1)保険金などで補填される金額
(例)生命保険契約などで支給される入院費給付金や健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金など
(注)保険金などで補填される金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません。
(2)10万円
(注)その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額
(以上、国税庁ウェブサイトより)
では、補聴器は医療費控除の対象となるのでしょうか?
2018年度から、補聴器の購入費用が、医療費控除の対象となりました。但し補聴器を医療費控除の対象にするには、「耳鼻咽喉科学会が認定した補聴器相談医に診察を受け、所定の書類を書いてもらってから、補聴器を購入する」ことが必要です。診察を受けずに自分の判断で購入した場合、医療費控除の対象となりませんのでご注意ください。相談医の診察の結果、必要性を認められた場合に限り医療費控除の対象となります。
補聴器の購入で医療費控除を受ける手続きは以下のような流れになります。
ステップ1:補聴器相談医の診察を受け、『補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)』(以下、「診療情報提供書」)に記入をお願いする。
ステップ2:補聴器販売店に「診療情報提供書」を見せて、補聴器を購入し、「診療情報提供書の写し」と「補聴器の領収書」を受け取る。
ステップ3:確定申告の際に、購入した年の「医療費控除」として税務署に申告する。
「補聴器相談医」のリストと、「診療情報提供書」のフォーマットは、日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会のウェブサイトからもダウンロードできます。
なお、「診療情報提供書」を書いてもらうときは、『補聴器を必要とする主な場面』という項目の『医師等による診療や治療を受けるために直接必要』に必ずチェックを入れて貰ってください。
◇各自治体の補聴器購入助成制度(公的助成)
補聴器の購入にかかる費用は、障害者総合支援法に基づいて助成を受けられます。ただ前述の通り、そのためには現状では障害者手帳が交付されていることが条件です。しかし手帳所持者ではなくても、各自治体で独自に設定されている、補聴器購入助成制度を利用すれば、条件によっては公的助成を受けることができます。
港区をはじめとした自治体での補聴器購入の助成制度は活発になっており、2023年12月の時点で助成金制度実施自治体は全国で237あります。お住まいの地域の最新の情報を手に入れてください。
●補助金に関する相談
障害者手帳を所持していなくても、上記の通り自治体独自に補聴器の購入にかかる公的助成を受けることができます。その多くが児童に関する助成が多いですが、中には上述の新宿区のように高齢の方への助成制度を設けている自治体もあります。対象となるかどうかに関しては、各自治体にお問い合わせいただくか、総合支援法対応モデルを取り扱う地域の補聴器専門店にご相談いただくことをお勧めいたします。◇補聴器の保険適応について
補聴器の購入に関しては、生命保険や健康保険、介護保険などの適用を受けることはできません。◇補聴器購入の消費税
補聴器の本体は補装具として消費税のかからない、非課税対象となっています。ただし、付属品や電池といったアクセサリーに関しては、課税対象つまり消費税を支払う必要があります。
その他、補聴器については下記の記事も参考にしてください。
(2024年7月更新)